盛土規制法の目的と施行までの経緯
最終更新日:
盛土規制法の正式名称は「宅地造成及び特定盛土等規制法」です。2022年5月27日に公布され、2023年5月26日に施行されました。国土交通省と農林水産省が共管し、基本方針は国土交通大臣と農林水産大臣が定め、規制の実施は都道府県知事、政令指定都市や中核市の長が担います。従来の宅地造成等規制法を大幅に改正したもので、法律名にも「特定盛土等」が加わりました。
旧法は宅地造成を主な対象としており、農地や森林で行われる盛土は、別の法律や条例の範囲に委ねられていました。そのため、同じ盛土でも土地の用途によって規制の有無や強さが異なるという隙間がありました。2021年7月の熱海市伊豆山地区の土石流災害を受けて、土地の用途にかかわらず、危険な盛土等を全国一律の基準で包括的に規制する方向へ制度が改められた、というのが法改正の大きな流れです。
この法律の特徴は、盛土だけでなく、土捨てや一時的な堆積も規制の対象に含めた点にあります。工事主だけでなく、土地の所有者、管理者、占有者にも責任が及びます。建設発生土を扱う事業者にとっては、搬出する側にも、運搬する側にも、受け入れる側にも関係する法律であり、国土交通省は盛土規制法のページで制度の概要、運用資料、盛土等防災マニュアルなどを公開しています。
条文を読むうえでの三つの視点
第一は「どこが規制されるか」、すなわち規制区域の指定です。第二は「何をすると許可や届出が要るか」、すなわち規制の対象行為と規模です。第三は「問題が起きたときに誰が責任を負うか」、すなわち命令や罰則の対象です。以降の節では、この三つの視点で制度を順に整理します。
規制区域の種類と指定の仕組み
規制区域には二つの種類があります。一つは、市街地や集落、その周辺など、盛土の崩落によって人家等に被害を及ぼしうる区域に指定される宅地造成等工事規制区域です。もう一つは、市街地から離れた山間部や農地などでも、地形や地質の条件から盛土が崩れた場合に人家等へ被害が及ぶおそれがある区域に指定される特定盛土等規制区域です。どちらの区域に指定されるかによって、許可が必要となる行為の規模や基準が異なります。
指定は都道府県知事等が行い、実施時期は自治体ごとに違います。法律の施行後に順次指定が進み、例えば東京都は令和6年7月下旬に区域を指定して運用を開始する予定と案内され、川崎市は令和7年4月1日の運用開始と案内していました。自分の工事予定地や、土の受入予定地が規制区域に含まれるかどうかは、各自治体が公開している区域図や、窓口での確認によって調べます。区域の外であっても、後述する土砂条例が適用される場合があるため、区域に入っていないことが規制がないことを意味するわけではありません。
基礎調査も制度の一部です。都道府県は、盛土の分布状況や危険度を把握するために、航空写真の分析や現地調査を行います。調査の結果は規制区域の指定の判断材料となり、既存の盛土の安全性を点検する契機にもなります。区域の指定は、一度行われると終わりではなく、調査の更新や災害の発生状況に応じて見直されるものです。
許可と届出:対象行為と手続きの流れ
規制区域内で一定規模以上の盛土、切土、土石の堆積を行う場合は、工事に着手する前に都道府県知事等の許可を受けるか、届出を行う必要があります。許可が必要な規模や基準は政令で区域ごとに定められています。具体的な数値は、盛土による崖の高さ、盛土や切土の面積、土石の堆積の高さと面積などを組み合わせて決められており、国土交通省や各自治体が早見表を公開しています。
宅地造成だけでなく、単なる土捨て行為や一時的な堆積も規制の対象です。これは建設発生土を扱う事業者にとって重要な点で、工事現場の外に設けるストックヤードや仮置き場も、規模によっては許可の対象となりえます。許可の審査では、災害を防止するための技術的基準に適合しているか、すなわち排水施設、擁壁、盛土の締固めや勾配などが基準を満たしているかが確認されます。
手続きの流れは、概ね次のとおりです。まず工事主が許可申請書に設計図書を添えて提出し、審査を経て許可を受けます。工事中は、必要に応じて中間検査が行われ、工事が完了すれば完了検査を受けます。許可を受けた後に計画を変更する場合は、変更許可や変更届出が必要となります。また、規制区域の指定の際にすでに工事を行っていた場合には、指定から一定期間内に届出を行う仕組みが設けられています。
手続きを自治体に相談する時期
許可の審査には時間がかかります。事前相談の段階で、盛土の規模、土の搬入元、搬入土の品質管理の方法、完了後の土地の利用計画を説明できるよう準備しておくことが望まれます。自治体の運用により必要書類や審査期間が異なるため、計画の初期段階で担当窓口に確認するのが一般的です。
既存盛土の調査と土地所有者の責任
この法律は、これから行われる盛土だけでなく、すでに存在する盛土にも関わります。規制区域内の盛土は、過去に行われたものを含めて、土地の所有者、管理者または占有者が常に安全な状態に維持するよう努めなければならないと定められています。盛土が崩れるおそれがあると判断された場合、都道府県知事等は、土地の所有者や、盛土を行った造成主、工事施工者に対して、災害防止のための措置を勧告または命令することができます。
この規定は、土地を取得する際や、土砂の受入事業を始める際の確認項目にも影響します。盛土の履歴が分からない土地を取得した場合、後から安全性が問題になれば、現在の所有者が責任を問われる可能性があります。不動産取引や資産管理の面でも、盛土の有無と状態を確認する意義は大きくなっています。
既存の盛土の調査は、国の指針に沿って自治体が行います。大規模な盛土は、航空写真、地形図、現地調査を組み合わせて点検され、危険度が高いと判断されたものについては、所有者へ対策の指導が行われます。民間の受入事業者にとっては、自社の受入地が過去にどのような経緯で盛土されたか、どのような記録が残っているかを整理しておくことが、行政の調査に対応する土台になります。
罰則と、命令に従わない場合の扱い
盛土規制法の罰則は重く設定されています。無許可で規制対象の盛土等を行った場合など、重大な違反に対しては、3年以下の懲役または1,000万円以下の罰金が定められ、法人に対しては最大で3億円以下の罰金が科されるいわゆる両罰規定の重科が設けられています。罰則の対象行為は条文ごとに異なるため、具体的な適用は条文の原文と、国土交通省が公開する逐条の解説で確認する必要があります。
罰則の前段階として、知事等による監督処分があります。違反した工事主に対しては、工事の施行の停止、災害防止措置の実施といった命令が出されます。命令の対象には、工事主や工事施行者だけでなく、過去に盛土を行った者や土地の所有者等が含まれる場合があります。つまり、問題の原因を作った者と、現在土地を管理している者の双方に、責任が及びうる設計になっています。
実務的な意味は明確です。受入側は、搬入される土の発生元と性状を把握せずに受け入れることのリスクが高まりました。運搬側は、運ぶ土の行き先が適切な許可を得た場所かどうかを確かめることが求められます。発注者や元請は、下請や運搬事業者を含めて、最終的な搬出先まで把握する必要があります。
都道府県・市町村の土砂条例との関係
盛土規制法の施行以前から、多くの都道府県や市町村は、土砂の埋立てや堆積を規制する独自の条例を持っていました。名称は自治体によって異なり、土砂等の埋立て等の規制に関する条例、土砂の排出、堆積等の規制に関する条例などがあります。多くは、一定面積以上の埋立て事業に対する許可や届出、搬入土砂の検査、事業区域の管理基準を定めています。
法律と条例の関係は、自治体ごとに整理されています。法の規制区域内の行為は法が優先して適用される一方で、規制区域外の行為や、法の規模要件に満たない行為には、引き続き条例が適用される運用が一般的です。条例を改正して法との重複を解消した自治体もあれば、両者を併存させている自治体もあります。同一の行為が両方の手続きの対象になる場合の調整も、窓口によって扱いが異なります。
このため、複数の自治体にまたがる運搬や、遠方の受入地への搬出を計画する場合には、搬出元と受入先の双方の自治体の規制を確認しなければなりません。地域をまたぐ搬出では、受入先の自治体が搬入土の発生元に関する書類を求める例もあります。個別の判断は、各自治体の公式サイトと窓口で行ってください。
工事発注者・運搬・受入側の実務で確認する項目
最後に、立場別に確認したい項目を整理します。ここで挙げるのは確認の観点であり、法的な助言ではありません。個別の案件は所管自治体や専門の事業者にご相談ください。
発注者・元請業者
建設発生土の搬出先の確認は、資源有効利用促進法に基づく省令の改正を受けて、元請業者の義務として強化されました。国土交通省の資料では、2024年6月から最終搬出先の確認が求められること、登録を受けたストックヤードへ搬出した場合には運営事業者が以降の適正な搬出を引き継ぐため、元請業者による最終搬出先の確認が不要になることが説明されています。搬出先の許可や登録の有無、搬出計画の作成、搬出の記録の保存が基本となります。
運搬事業者
運搬を請け負う事業者は、受け取った土の発生元と引渡先が記録と一致していることを確認します。過積載の防止や、荷台の養生、車輪に付着した泥の処理など、道路上の安全管理も欠かせません。後続の第5ページで扱う動態管理ツールやトレーサビリティシステムは、運搬の記録を残す手段として導入が進んでいます。
受入事業者
受入側は、受け入れる土の発生元、土質、量、搬入時期の記録を残し、規制区域に該当する場合は許可の範囲内で受け入れます。登録を受けたストックヤードの運営事業者は、土砂が不法な盛土等に使われないよう、搬出先の適正を確認する義務を負います。受入地の許可や登録の状況は、自治体や地方整備局が公表する一覧で確認できます。受入先の探し方や制度の違いは、残土マッチング・受入先検索サービスの比較表に整理しています。
制度の全体像は建設副産物の全体像と残土問題の経緯に、運搬のデジタル化はダンプ動態管理・電子マニフェスト・トレーサビリティDXにまとめています。
